データサイエンティストにプロフェッショナル意識を ~NEC本橋洋介氏インタビュー~

      2018/10/10    - インタビュー   執筆者:スキル委員孝忠大輔

NECのシニアデータアナリストとしてご活躍されている本橋洋介氏にお話をお伺いしました。
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本橋洋介氏(略歴)
2006年NEC入社後、人工知能・知識科学・機械学習・データマイニング技術と分析ソリューションの研究開発に従事。機械学習の実問題適用を専門としており、これまでに機械学習技術を用いた分析サービス・システムの導入について30社以上に対して実績あり。2016年、NECが新規に創設したシニアデータアナリストの初代認定者になる。AI技術やサービスの広報役としてビジネスカンファレンスなどでの講演を多数行うと共に、企業トップ層へのAI活用に関するロードマップ策定のコンサルティングを実施。

Q. 現在の主な業務内容をお聞かせください。特に、棟梁データサイエンティストとしての活動内容をお聞かせください。

本橋:NECのAI・アナリティクス事業を統括する「AI・アナリティクス事業開発本部」で、全業種を対象として、機械学習を使ったシステム構築や仮説検証(Proof of Concept)を実施しています。そのような活動を通じ、棟梁データサイエンティストとして二つの役割を担っています。一つはAIを宣伝する「スポークスパーソン」としての役割。もう一つはNECの中で、誰も取り組んだことのない難しいテーマに対応するための「エグゼクティブ コンサルタント」としての役割です。AIやIoTは抽象的であり、かつ幅広い領域をカバーする必要があります。例えば、金融業界の離反分析などは、さまざまな所で実践されているので進め方に迷うことはありませんが、誰もやったことのないテーマに対応していくためには、自分のような「AIなら何でもござれ」のデータサイエンティストが必要になります。

Q. データ活用に携わるようになったきっかけ、そこから棟梁データサイエンティストに至るまでの歴史をお聞かせください。

本橋:データサイエンティストとしてのキャリアパスの一つである、研究者からデータサイエンティストになったタイプです。ずっと機械学習や知識科学など、人工知能に類する内容を研究していましたが、ビッグデータブームのタイミングでNEC研究所の機械学習応用チームに入ることになりました。そこでの活動が事業として育ったので、最終的に現在の部門でデータサイエンティストとして活動しています。研究所では、機械学習のアルゴリズムを考えるメンバは多数いましたが、機械学習の実問題適用をうまく考える研究者は少なく、重宝されました。研究者の中には基礎研究を続ける人もいますが、実世界への適用を中心に活動することを選びました。基礎研究から離れることは勇気のいる行為ですが、時にはそのような決断も必要だと思います。

Q. データサイエンティスト(棟梁)としてデータ活用に携わるには、どのようなスキルが必要だと考えますか?そのスキルを習得するに際して、どのようなことを行われましたか?工夫したことや苦慮したことなど、何かエピソードがございましたらお聞かせください。

本橋:棟梁以前(見習いや独り立ちレベル)の人には、まず算数・統計スキル(数字勘)が必要だと考えます。特に機械学習を使える方は、ツールやプログラミング技術の習得へのこだわりが強くなりがちですが、それだけではなく、数字勘を身に付けて欲しいです。データの計算を間違えた時に、元のデータがまずかったのか、途中結果がまずかったのかがわかるためには数字勘が必要です。ミスは絶対にあるものなので、ミスした際に、どこがおかしいか気付くことができる瞬発力が大事となります。業務経験は年を追うごとに年輪のように増えて行きますが、年齢と共に衰えて行くのが計算力です。そこで、計算力を維持するために、他の人よりも意識して「暗算」することを心がけています。また、計算力をキープするために、定期的に数学や算数の問題を解くようにしています。英語力を維持するためにオンラインの英会話をずっと続けているのと同じ感覚です。
自身が担っている「スポークスパーソン」の役割としては、薄くてもよいので全てのカテゴリについてしゃべれることが必要と考えます。例えば、人工知能学会が出している「人工知能学大事典」に載っている内容は、一通り説明できるようにしています。一つの領域にすごく詳しいということも大切ですが、いろいろ知っているということも一つのオリジナリティとなります。そのためには、お客様に聞かれたことに答えられるよう、日夜勉強するという姿勢が必要です。最初は大変ですが、一通り勉強してしまえば、差分で覚えなければならないことは、そこまで多くないかなと考えています。
ところで、データサイエンティストは、大きく2種類に分かれると考えています。自社のデータを分析する「インハウス型」のデータサイエンティストと、NECなどのように他社のデータを分析する「アウトソース型」のデータサイエンティストです。NECのようなアウトソース型のデータサイエンティストには、コンサルタント的なスキルが必要となります。データ分析を行う業界/業務への関心を非常に高め、顧客に会ってすぐに、どういう仕事をしているかを吸収する、という知的好奇心が必要です。新しい業界に携わる際は、その業界に関する本を3冊読むと共に、その会社についてホームページを調べることが必要と言ったりしています。
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Q. ご自身の活動の今後の発展性/方向性/新たなチャレンジなどがございましたらお聞かせください。

本橋:今後、AIを当たり前のように活用する時代になると思います。すべての企業は常時1000種類ぐらいのAIを持つという世界になることを夢見ていて、そこに向けてどんどんAIを増殖させて行きたいと考えています。AIの広がりは、ちょうどコンピュータが普及していった過程に似ていると思います。大学の研究室にしかなかったコンピュータがパーソナルコンピュータとしてどの家庭にも一台はあるようになり、最終的には、スマートフォンとして一人一台保有する状況になる。AIも同じ様に、最終的には個々人が「マイAI」を持つようになるはずなので、それをサポートして行きたいと考えています。今は、一つのAIを作るだけでも大変ですが、たくさんのAI生まれてくる世界になるようにしていきたいと考えています。

Q. 最後に、棟梁データサイエンティストを目指す方(見習いや独り立ち)に高めて欲しいスキルやマインド、その他メッセージがございましたらお願いします。

本橋:データサイエンティストとして活動する上で、「プロ意識」は非常に重要だと考えています。棟梁と呼ばれているデータサイエンティストは、みんなプロ意識を持っていると感じます。データサイエンティストの仕事は料理に近い部分があると思います。誰でも料理を作れる中、なぜわざわざ高いお金を払って外食をするのかと考えると、プロの作った美味しい料理を食べたいからです。お客様からお金をもらって分析をやっている以上、プロとしてしっかり価値を発揮していくことが必要です。自分の出した分析結果が、どれくらいの価値があるのか?ディズニーランドの年間パスポートの何百倍の価値があるのか?等、常に意識しながら働いています。
データサイエンティストという仕事が市民権を持ち始めてから、データサイエンティストを目指す学生の数は増えましたが、一方で、「データサイエンティストになってどんなことがしたいか」や「自分はどんな特徴あるデータサイエンティストになりたいか」の具体的な熱意を持っていない学生の数も増えたように感じています。教科書的なデータサイエンティストの仕事ほどつまらないものはないので、若い人たちには是非、他のデータサイエンティストが持っていない自分なりの味を身に付け、自らがデータサイエンティストの定義を変えるぐらいの気持ちを持って欲しいです。

■編集後記
研究開発の分野から棟梁データサイエンティストへのキャリアを積まれる中で、「顧客への知的好奇心」「業界本を読む」「お客様のHPを必ず見る」など、ビジネスにおける基本動作の徹底を意識されているというお話は、弊協会のスキル定義とも一致する考え方であり、また、AIプログラミングに偏重しすぎないための業界への警笛とも感じられる、NECにおけるデータサイエンスのパイオニアならではのインタビューでした。(スキル委員:高橋)
常にプロフェッショナルとして行動する姿勢に感服です。(スキル委員:孝忠)