金融の世界でデータサイエンスに取り組む ~Data ForeVision松本崇氏インタビュー~

      2018/12/04    - インタビュー   執筆者:スキル委員孝忠大輔

データ・フォアビジョンのデータ・サイエンス部 上席副部長としてご活躍されている松本崇氏にお話をお伺いしました。
DSC06670松本崇氏(略歴)
・早稲田大学大学院理工学研究科 博士後期課程修了(理学博士)
・ピッツバーグ大学 博士研究員
・日本学術振興会 特別研究員
・早稲田理工学術院 講師
・データ・フォアビジョン株式会社 データ・サイエンス部 上席副部長(現在)

Q. 現在の主な業務内容をお聞かせください。特に、棟梁データサイエンティストとしての活動内容をお聞かせください。

松本:データ・フォアビジョンでは、金融業界向けに銀行の格付けモデルや市場リスクなどのデータ分析ソリューションを提供しています。私自身は、営業提案活動や要件定義といった上流工程を主に担当しています。それに加え、最近は当社メンバがオンサイトで分析モデルを作成する仕事も増えてきたので、常駐しているメンバのもとを訪れ、分析の内容をチェックしたり、モデル改善の方向性をアドバイスしたりしています。常に3つか4つの提案活動を並行しながら、毎日、どこかしらのプロジェクトで要件定義やアドバイスを行っているので、会社にいないことが多かったりします。お客様は銀行様が中心ですが、最近はカード会社様の案件も増えてきています。

Q. データ活用に携わるようになったきっかけ、そこから棟梁データサイエンティストに至るまでの歴史をお聞かせください。

松本:今の業界に関わるようになったのは10年前からですが、それまでは会社勤めを経験したことがなく、大学で学位を取ってポスドク(博士研究員)をやっていました。よくある「ポスドク35歳定年説」ではないですが、企業で働くことを考え始め、研究していた統計物理学(カオス複雑系)で身に付けたスキルが金融系だと活かせるのではないかと思い就職活動を始めました。当時エージェントから、保険会社のアクチュアリーやリスク管理のソリューションを提供している会社を紹介され、その中からデータ・フォアビジョンを選びました。そこで配属された部署でやっていた仕事が、現在ではデータサイエンティストと呼ばれる仕事でした。

この世界に入ってみてイメージが違っていたのは、金融工学では理論の話が中心であまりデータは出てきませんが、データサイエンティストの仕事はデータありきということです。金融工学はマーケット/市場の話なので、価格がどう変動するか理論が先にあってモデルにフィットさせます。一方で、データサイエンティストの業務は理論ありきではなく、データからモデルを作成し、予測を行います。銀行業務では、どれだけデフォルト損失が発生するか予測することに価値があるのですが、誰がデフォルトするのかという理論はないため、データから導き出すしかありません。

最初はモデル作りから入ったのですが、より良いモデルを作ろうとするとバーゼルなどの規制について詳しく知る必要があります。どんな規制がかかっているのかを知ることによって、規制を満たす中で銀行が最大限リスクを取れるモデルを提供できるようになります。データ・フォアビジョンのような会社は、銀行業務そのものには関わることはできませんが、銀行を横断的に見ることによって、様々な観点で会話が出来るようになりました。その結果、お客様に頼って頂けるようになり、上流工程に関わる機会が多くなりました。

Q. データサイエンティスト(棟梁)としてデータ活用に携わるには、どのようなスキルが必要だと考えますか?そのスキルを習得するに際して、どのようなことを行われましたか?工夫したことや苦慮したことなど、何かエピソードがございましたらお聞かせください。

 松本:データサイエンティストには「プログラミング」「論理的思考」「数学」の3つのスキルが必要と考えています。私自身はC言語を勉強しましたが、プログラミングに関してはどの言語でも良いので、若いうちに1つやっておくことをオススメします。最近は、誰かが書いたコードを使い回して済ましてしまうことも多いと思いますが、ゼロからコードを書くという経験も必要です。論理思考に関しては、必要条件/十分条件や、ベン図の包含関係、命題の逆/裏/対偶など一回は訓練しておいた方がよいです。論理思考を身に付けるためには、「頭の体操(多湖輝)」を読んだりするのもよいと思います。知識を問うのではなく、よくよく考えてみるとわかるというクイズのような問題ですが勉強になります。数学に関しては、微分方程式が解けるようになれとは言いませんので、簡単な算数はできるようにして欲しいです。機械学習などの「データサイエンス力」に関しては、3つのベーススキルを基に、仕事で出会ったタイミングで、問題を解きながら身に付けて行けばよいと思っています。手持ちの知識で解けなければ、新しいものを学ぶしかなくなりますので。

金融は規制という教科書があるためドメイン知識を身に付けやすい業種だと思っています。日銀からは「金融研究(日本銀行金融研究所機関誌)」や「日銀レビュー(日本銀行 Bank of Japan)」など、色々な読み物が出ています。意外に、こういった読み物を読んでいない人も多いので、読んでいるだけで他のデータサイエンティストと比べて優位に立つことができます。この仕事に関わるまでは、会計や簿記の知識はなかったのですが、金融系だと決算書を使って分析することが多いため会計についても勉強しました。その結果、この企業はどこでリスクを取っているんだろうとか、どういうビジネスモデルになっているんだろうとか興味がわくようになりました。

またデータサイエンティストには、問題を設定できるスキルが重要だと考えています。例えば、Kaggleは正解データがあって、その中で精度を競うものですが、ビジネスではそもそもどれを正解データとするのかを決めることから始まります。お客様がどういうビジネスをやろうとしているかによって、正解の定義は異なってくるため、お客様と話して課題設定できるスキルが必要になるのです。
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Q. ご自身の活動の今後の発展性/方向性/新たなチャレンジなどがございましたらお聞かせください。

 松本:日頃から、組織としてデータサイエンスをやって行くには、もっとうまいやり方があるかもしれないと考えています。私自身も完璧に出来ているわけではありませんが、若いデータサイエンティストには経験を積ませてあげることも重要です。その人が経験したことがない、うまく出来るかどうかもわからないという場合でも、時には覚悟を決めてプロジェクトに放り込んであげることも必要だと感じています。また、データサイエンスプロジェクトのをマネジメントするという役割は、非常に難しい仕事だと思っています。通常のシステム開発であれば、ある程度「型」にはまって進むためPMBOKを学んだ人であれば、いきなりプロジェクトに参画してもなんとか進めることが出来ますが、データサイエンスプロジェクトの場合は、いきなりやってきた人にマネジメントを任せることはできません。通常の職種であれば、マネジメント層よりも現場の方が技術や理論に詳しかったりするのですが、データサイエンティストの場合は、現場を仕切るマネジメント側の方が技術に詳しいということが求められます。現場に負けない技術力がないとデータサイエンティストのマネジメントは務まらないため、マネジメント層をどう増やして行くかもチャレンジすべきテーマの一つです。

Q. 最後に、棟梁データサイエンティストを目指す方(見習いや独り立ち)に高めて欲しいスキルやマインド、その他メッセージがございましたらお願いします。

松本:データサイエンティストを目指す方は、最低限プログラミング知識を身に付けておいて欲しいです。また、業務で出会ったものについては、その都度勉強するマインドを持って欲しいと思っています。ただし、自分の中に本当にスーッと入ってくるのは、自分が興味を持っているものだったりするので、興味を持った領域の知識を吸収し続けて行くことが大切です。データサイエンティストはゼネラリストな職業なので、あまり領域を絞り込みすぎず「金融」ぐらいの幅広さで興味を持って取り組んで行くのが良いと思います。特定の領域を突き詰めるのであれば、相当突き抜けないと苦しくなります。

DSC06672     スキル委員        Data ForeVision        スキル委員
     森谷和弘         松本崇氏            孝忠大輔

○今回、ご紹介頂いた書籍
・頭の体操(多湖輝)  https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334728052
・金融研究(日本銀行金融研究所機関誌)  https://www.boj.or.jp/research/imes/mes/index.htm/
・日銀レビュー(日本銀行 Bank of Japan)  https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_all/index.htm/

■編集後記■
研究者から金融データサイエンティストへと転身され、棟梁として組織を牽引している松本さんのキャリアは、多くの方にとってロールモデルになるのではないかと感じられました。データ・フォアビジョンではエンジニアを「金融宮大工」と呼んでいるとのこと。今後はマネージャー層のさらなる育成にチャレンジしていくとのことですので、さらなる「金融宮大工」の棟梁輩出を楽しみにしております。(スキル委員:森谷)

データサイエンス組織のマネジメントに難しさを感じている人もたくさんいると思います。インタビュー後に松本さんが話してくれた「若手にチャレンジされた時に、打ち返せるスキルがマネジメント層には必要」とのコメントが表す通り、マネジメント側も日々鍛錬が必要であることを再認識しました。(スキル委員:孝忠)