データサイエンティストが努力の時代を生きるには ~石山洸氏インタビュー~

       - インタビュー   執筆者:スキル委員 原茂

株式会社エクサウィザーズの代表取締役社長としてご活躍されている石山洸氏にお話をお伺いしました。

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石山洸氏(略歴)

東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。2006年4月、株式会社リクルートホールディングスに入社。同社のデジタル化を推進した後、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズにのせ売却した経験を経て、2014年4月、メディアテクノロジーラボ所長に就任。2015年4月、リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。2017年3月、デジタルセンセーション株式会社取締役COOに就任。2017年10月の合併を機に、現職就任。静岡大学客員教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員准教授。

Q1.データ活用に携わるようになったきっかけ、そこから棟梁データサイエンティストに至るまでの歴史をお聞かせください。

新卒で入社したのがリクルートだったのですが、ちょうどデジタルトランスフォーメーションに取り組み始めたタイミングで、最初に配属された部署が全社のオンラインマーケティングを実施する「インターネットマーケティング局」でした。インターネットマーケティング局には大量のアクセスログがあり、スポンサードサーチの最適化や行動ターゲティングに取り組んでいました。オンラインマーケティングはCPA(Cost per Acquisition顧客獲得単価)のようなわかりやすい指標があるので、お金に関するデータと紐付けやすく面白かったです。

実は入社する前の内定者の頃から、アルバイトとしてリクルートサイトのアクセスログ分析に携わっており、入社前にリクルートすべてのWebサイトのCPAを知っているという状態でした。大学院時代にゲーム理論やオークション理論をやっていましたが、内定者アルバイトでビジネスの世界に飛び込んでみると、非常に進んでいてびっくりしました。大学ではわざわざシミュレーションでデータを作ったりしていましたが、ビジネスの世界では普通にデータがあり感動しました。また当時のリクルートは、スポンサードサーチの取扱量も非常に多く、お金もデータも大量にあるという経験を学生時代にさせてもらったことは、大きかったと思います。

入社後、デジタルデータの分析と同時に定性調査も数多く実施させてもらいました。マルチデバイス(雑誌フリーペーパー、モバイル、PC)の使い分け調査や、ホットペッパーの写真の見られ方がWebサイトと雑誌でどう違うかといったアイトラッキング調査などを実施しました。データもリアルで、ビジネスもリアルという生々しい経験を入社4年目までに出来たことが大きな資産となりました。4年目の終わりに事業開発コンペに出したプランが、最終的にはビッグデータの会社設立に至り、スタートアップ経営の経験もさせてもらいました。どのロールだったとしてもデータサイエンスは使っているので、数多くのロールに関わっていくことをお勧めします。

Q2.データサイエンティスト(棟梁)としてデータ活用に携わるには、どのようなスキルが必要だと考えますか?

世の中とインタラクションしている、という感覚をもてることが重要だと思います。データを使って社会に働きかけると社会が変わる、という実感値、成功体験があるとよいと思います。今振り返ってみると、データサイエンティストになる人というのは、私みたいに“データを見たい”かつ“データからビジネスに繋げたい”という欲求を持っている人なのかもしれません。リクルートには色々な領域のデータがたくさんあり、いくら見ていても飽きないという環境でした。色々なデータを触らせてもらえて、お金をもらえるんだということに感動したことを覚えています。新人でも億レベルの利益を出せたりして、快感ですよね。

エクサウィザーズの場合だと、ドメインナレッジを重視しています。TensorFlowやPyTorchのようなグローバルでのプラットフォーマーがいて、その上にバーティカルなクロスプラットフォームを作ろうとした場合、競合優位性を保とうとするとドメインナレッジとの結合レベルを高くする必要があります。“薬学博士でディープラーニングもやっています”みたいな人や、“ケアのインストラクターの資格を持っていて、情報学の先生をやっていました”のような二刀流スキルを持った人材がエクサウィザーズには集まっています。

Q3.スキルを習得するに際して、どのようなことを行われましたか?工夫したことや苦慮したことなど、何かエピソードがございましたらお聞かせください。

新人のころ上司がマッキンゼー出身の人だったのですが、ファクトベースで話せば、経営者の人が話しても1年目の新人が話しても“ファクトはファクトなので同じ”ということを教えられました。また、これからはデータの時代に入り“さらにファクトが説明しやすくなるのでデータを使わない手はない”とアドバイスされました。コンサル出身の上司ということで、ロジカルシンキングなどコンサルタントが1年目で身に付けるスキルを学ぶことができました。

また、大学院生のころの先生は理学と経済学の博士を両方もっていて、本人曰くバックグラウンドは科学哲学。そのため科学哲学はかなり勉強しました。カール・ポパー、ラカトシュ・イムレ、トーマス・クーン、ポール・ファイヤアーベントといったところも一通り読みました。サイエンスにおいてパラダイムシフトは起き続けている、ということ自体をまず歴史的に理解する、ということですね。

エクサウィザーズだと、介護の問題に取り組んでいますが、“どのようなケアを行った時に”、“どのような医学的な効果があって”、“どのように社会保障費が減るのか”といった3つの要素を繋げる必要があります。つまり、コンピュータサイエンスと医科学と経済学をわかる必要があるという事になります。そうすると学位を3つ取らなきゃならないという話になりますが、個人的には、今は「努力の時代」だと思っているので、3倍頑張れば良いだけかなと思います。各領域を個別に習得して行くというよりも、実問題を解きながらスキルアップしていくのが、圧倒的に効率的だと思います。そういった意味で、科学への好奇心というのも必要かもしれませんね。

Q4.ご自身の活動の今後の発展性/方向性/新たなチャレンジなどがございましたらお聞かせください。

社会保障費についてです。テクノロジーでQOLも上げながら社会保障費を下げるプロダクトを作っていく、ということをやってみたいと思っています。介護費が2025年に20兆なので、20%下げた16兆を目標にして、その4兆円分の何%かを成果連動型で民間に還元する仕組み作りに取り組んでいます。そうして、データを使って皆で社会保障費を下げていこう、という社会になっていくと本当の意味でのスマートシティになると思っています。

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Q5.最後に、棟梁データサイエンティストを目指す方(見習いや独り立ち)に高めて欲しいスキルやマインド、その他メッセージがございましたらお願いします。

データサイエンスに携わる人は頭の良い人が多いのですが、頭が良いだけに努力しなくなることが多く、イノベーションのジレンマになっています。ビジネスでは自分の経験量を最大化した方が良く、その経験量をテクノロジーでレバレッジしていくことが大切です。どう経験量を増やすかをストラテジックに考えていくことをお勧めします。そのためには非常に努力することが必要となるのです。

プロ野球選手としてスタメンで活躍する選手は、「圧倒的な才能」×「圧倒的な練習量」によって成り立っています。AIエンジニアやデータサイエンティストも昨今、プロ野球選手に近い年棒をもらう人も出てきていることを考えると、「圧倒的な才能」と「圧倒的な努力」が必要という意識を持つべきだと思います。それが、プロとして自立する、ということかもしれません。

コンピュータサイエンス(学部専門および大学院)の定員枠は海外の方が圧倒的に多く、今から追いつくのは難しい状況です。人工知能技術戦略会議の人材育成タスクフォースの副主査をやっていましたが、そこで提言したのは「全学部がAI(コンピュータサイエンス)をやろうよ」「野球の大谷選手のように、コンピュータサイエンスの学位を持ちつつ、他の領域の学位も持つ二刀流になろうよ」ということです。さらに「できればそこに社会科学を掛け合わせて欲しい」というのが希望です。

■編集後記■

デジタル黎明期の貴重なお話を聞かせて頂きました。データサイエンティストには「圧倒的な努力が必要」。。頑張ります!(スキル委員:孝忠)

幅広い視点からのインタビューであっという間の時間でした。「サイエンスにおけるパラダイムシフトは起き続けている」との言葉をお聞きし、久しぶりに科学哲学の古典を読み返そうと感じました。(スキル委員:高橋)

社会事象をモデル化してとらえ、ホワイトボードにスラスラと書きながら考察を展開していくプレセンが特に面白く、読者の皆様に動画で配信でいないのが惜しい気持ちでいっぱいです!(スキル委員:森谷)