2016.05.24

データサイエンスアワード2015最優秀賞受賞 全日本食品株式会社様インタビューvol.2

昨年初めて開催された一般社団法人データサイエンティスト協会による「データサイエンスアワード2015」で最優秀賞に輝かれた全日本食品株式会社様に、受賞理由となったデータ分析によるサービスの継続的な改善への取り組みについてお話を伺う第2回目(全3回)。今回は、ID付POSで収集したデータを分析することで実現した、日本チェーンストアの前年同月比を上回る成果等を挙げられている店舗支援策(価格最適化や自動発注システム)についてご説明いただきました。

データを駆使したボランタリチェーンの独自のビジネスモデルを紹介したvol.1はこちら

恩田 明 氏、宇田川 貴志 氏

全日本食品株式会社
情報システム本部 本部長
上席執行役員 恩田 明 氏(写真右)

全日本食品株式会社
マーケティング本部
副本部長 宇田川 貴志 氏(写真左)
※所属役職は取材当時のもの

––– ID付POSを通じて全国から集められたデータは、お客様へのお得サービス以外にどのように利用されているのでしょうか?

恩田 主に、自動発注システムやプライシングに活用しています。まず、自動発注についてですが、いわゆる補充発注ではなく、この商品がどのぐらい在庫があれば基本的には欠品にはならない、つまりチャンスロスを起こさないというギリギリの線を保つということをコンピューターで全部計算して、店舗へのリコメンドではなくて勝手に商品を送り込んでいくシステムになっています。だから店舗側が要る、要らないということに関係なく、これは絶対売れるからということで一方的に送っています。

––– それはすごいですね。貴社グループチェーン約1800店舗の全てでその仕組みが動いているのでしょうか?

恩田 さすがに、全てではないです。基本的にはうちのPOSが入ってないとこれはできないので、チェーン店舗のうち、当該POSが入っている所が800店舗弱ぐらいで、そのうちの8割くらいの店舗で、何かしらの自動発注が利用されています。このカテゴリーだけ、この商品だけに自動発注システムを利用する、という設定ができるので。基本的には売れるものがちゃんと送り込まれる、売れないものがどんどんカットされるというような仕組みですので、基本的には売り上げが必然的に上がっていくようになっています。

 

––– 自動発注システムの利用店舗と、独力で発注作業を回している店舗では、売上げや利益に差は出ているのでしょうか?

宇田川 自動発注の導入状況の他、店舗の規模や特徴、競争条件も様々なもので、店舗単位での比較というのは難しくて、精緻には実施をしていないのですが、単品単位では圧倒的な差が出てきます。

恩田 これもう数字で完全に出ています。ですから、もっと自動発注をやりましょうとご案内をしているのですが、ボランタリーチェーンって独立性が高い分、「俺のやり方でやる」という方が結構多いのですよ。本部から「これやって売り上げが上がる、利益が出る」とお伝えしても、ちょっとしか利用していただけない。このあたりは、(本部からの統制が利かない)ボランタリーチェーンのジレンマですね。

自動発注表

宇田川 本部側で店舗の過去の発注履歴データを見ると、ちゃんと発注してそうなお店でも大体毎日同じ発注の繰り返しをされています。つまり、平均日販3個だったら3、3、3っていう発注を毎日されている。ほぼ毎日同じ数量の発注だったら1年前でも発注できるのに、と感じる事があります。その結果として、欠品を起こしてお客さんに迷惑かけてしまっているので、そういうことやめてきましょうよ、というところがまず一番の本質論ですね。

恩田 実際、ある商品が夕方の4時ぐらいにはもう全部売り切れているという状態がもうデータに出ているわけですよ。これは、完全にチャンスロスを起こしてしまっていますよね。その店舗が適正な在庫を持つために、過去のデータから全部自動計算して、それもカテゴリーごとに安全係数も全部変えた上で作っているのが今のわれわれの自動発注です。よく一般的にパッケージとかで出ている自動発注の仕組みがあるのですが、おそらくそれらとはかなりレベル感が違うかなと思います。

––– その自動発注のアルゴリズムは、御社の中で独自で開発されたものなのでしょうか?それとも、元々ソフトウエアに具備されていたものなのか。

宇田川 ロジック自体は基本的にもう20年以上、ずっと前から教科書とかに載っているような在庫管理のものを使っていますが、その中で安全係数っていわれている、商品ごとに欠品率をどう見るかというのがわれわれのノウハウになります。過去、データに基づいて、ちくちく計算しながら、いろいろなシミュレーションをしながら作っていったというのが実態です。

恩田 ちくちくやったのがこの宇田川です(笑)

宇田川 貴志 氏

––– そのロジックは、どれぐらいの期間をかけて完成されたものなのでしょうか?あるいは、今も改善中なのでしょうか?

宇田川 常に、日々改善を続けています。当初のロジックに載っていないものがどんどんリリースされて、かなりレベルアップをしています。例えば、ちょうど今ぐらいの時期です。春のお彼岸の時期になると(気温の上昇とともに)豆腐類の欠品が続くようになっていたのですが、当初のロジックではどうにもならなかった問題でした。その対応として、30日間で販売実績を見る場合に、30日前と昨日の重みを一番直近に寄せています。

簡単に言うと、30日前は掛ける1、直近は掛ける30にして、足して465で割るみたいな形でやって、より直近のデータに重みを置いて発注をしていくとかっていうようなところを後から追加したりしています。今、生鮮食品などにもチャレンジしていまして、今、安全係数を別のものを作る取り組みをしています。そのほかにも、値引きと廃棄と利益の兼ね合いから、どこに安全係数を持っていくのが最適かというテーマで、ちくちくと直しているのが実態です。

––– プライシングへの活用についても教えていただけますか?

宇田川 商品の価格弾性値を出すための取り組みの歴史は長く、現在のPOSが入る前から取り組んでいました。現在は、1エリア毎に、それぞれの商品をいくらで出せば一番儲かりますよという推奨値を算出して、POSのマスターに入れて提供をしていますので、そのまま利用していただければ、その推奨値で販売が実現される形になっています。

––– 全日食の施策をしっかり実施している店舗との違いはございますか?

宇田川 はい、それはもう圧倒的な差がついています。うちの施策をしっかりやっている店舗は、通常の日本チェーンストア協会の前年同月比と比べても勝っています。

売り上げ比較

––– 発注も売価の設定も、どんどんとロジックが賢くなって発注を本部に任せられるとしたら、今後、店舗側の役割は何になっていくのでしょうか?

恩田 われわれはそういう情報システムとデータを使って店舗の効率を高めるので、それでできた余裕で、店舗側にはお客さまに対してのコミュニケーション、つまり接客などのハイタッチな部分を強化いただくのが、本部と店舗の役割分担という意味でいいのではないかと考えています。

––– ちなみに、本部でそれらの分析を実現する部隊はどのような体勢で取り組まれているのでしょうか?

宇田川 基本、分析作業は私どものマーケティング部で行っています。マーケティング部自体には社員が20名ぐらい在籍していますが、お話ししたような分析を行っているのは4~5名です。マーケティング部にはチラシを作る部隊があったり、全国のMDを管理する部隊があったり、全国のSVを管理する部隊がありますのでそういう人材もいて、彼らもちゃんとデータは触れるのですが、そこはどちらかというと単店レベルのデータをいじっている感じになります。なので、全体のデータを分析しているのは4~5名ぐらいです。

テーマとしては、先ほどの自動発注のロジック改善のように、今までやってきた中で「こういうところに問題があるだろう」、「こういうとこを改善すれば良くなるのではないか」というものに取り組んでいます。例えば、この個別チラシの商品の表示の並び順一つ取っても「どうするのがいいのか?」という課題が挙がった段階で、周りを巻き込んで進めています。今は、専修大学の先生と一緒になっていろんな分析手法を教えてもらい、勉強しながら一緒に作っていっているような状況です。

––– 主な分析環境として、何を利用されているのでしょうか?

宇田川 EXCELやACCESSの他、数理システム社のVisual Mining Studioを使っています。ただ多くの場合は、基本的にはSQLで、最後にEXCELやACCESSに落として作業をしています。

––– 扱われているデータの規模ってどれぐらいなのでしょうか?

宇田川 購買履歴が、月間10億レコードくらいで、年間で1度でも購入のあったアクティブ会員が150万人ぐらい、月間のアクティブ会員で80万人という規模の分析をそのような体制とツールでまわしています。

Vol.3「ビジネス課題と今後の展望」はこちら

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