2016.10.14

「分野跳躍力」でこれからのデータサイエンスを生きよ(後篇) ~統計数理研究所樋口知之所長インタビュー~

データサイエンティスト協会顧問でもあり、統計数理研究所の所長を努められる樋口知之先生に、お話を伺って参りました。先生ご自身の半生を振り返って頂きながら、データサイエンスへの興味の原点やこれからのデータサイエンスへの展望を前篇と後編の全2回でお届けします。

 

統計数理研究所 所長
樋口 知之先生

1984年 東京大学理学部地球物理学科卒業
1989年 同大学院理学系研究科博士課程修了後、統計数理研究所に入所。2011年4月より同研究所 所長。
情報・システム研究機構 理事
総合研究大学院大学統計科学専攻 教授

【アカデミアでのデータサイエンスに対する対策。日本がデータサイエンスに強くなるために】
Q.  ところで、アカデミアのデータサイエンスへの取り組みやありたき姿について先生のお考えを教えて下さい。

樋口: 今年から文部科学省でもデータサイエンスを強化する動きが出てきました。マスとしてデータサイエンスを獲得する土台ができてきたのです。4年後以降にはデータサイエンスの素養を持った大量の学生が企業に就職し始める、ということです。私は重要な学習方法の一つはPBL(Project Based Learning)だと考えています。OJTは実施が少し大変ですからね。企業側には今からPBLに適した企業内のデータやその事業ドメインのデータを提供頂き、学生に事業に興味を持ってもらう機会となり得ます。

文系の商学部や経済学部だとしても、学問的な座学はeLearningを推奨し、講義はPBLで実際のビジネスの構造や論理に触れる方が良いと思います。

樋口 知之先生

インタビュー風景

こういうPBLの利点は企業側、学生側双方にあると思っています。企業側としては、ローデータでなくてもよいので、業態の癖が勉強できるデータを大学に出しておけば、ドメイン知識を早く身につけた優秀な学生にアプローチすることができるわけです。学生には実社会のデータを元に正解のない解を考え抜く、ということを早く経験してほしい、と考えています。プログラミング能力も重要ですが、答えのない問題を論理的に考える力や、人にわかりやすく伝える能力などもデータサイエンスでは大事ですからね。

PBLで色々なケースに触れ、グループでとことん話合いながらお互いを高めあってセンスを磨くことを早めに体験してほしいです。

一方、暗号技術や故障検知技術のように純粋数学に近い分野で、全く違う専門性が必要になっていることもあります。これからIoTの時代を迎え、モノづくりやリアルの世界でのデータサイエンスが益々必要となりますが、その時に専門技術や知識に優れた

 

スペシャリスト人材とデータドリブンにPDCAを回し、ビジネスを推進できるような人材とを、企業では適材適所で活用することが必要になるでしょうね。

IoTはまだまだです。センサーデータはごまんと作れるでしょう。でもそれがどんなビジネスになるか、その価値を創造できる人がまだまだ足りません。例えば地方自治体のオープンデータで可視化まではできても、課題はその先にあるのです。地方自治体にとっての人口減や高齢化などの、「確実に来る不都合な真実」にこそ、逆にビジネスチャンスがあると思いますし、ある意味、「地味なデータサイエンティスト」というか、データの価値を課題側から入って、地道に分析から引き出すことのできる人が必要になってきます。

 

【データサイエンティストを目指す学生へ伝えたいこと。自分を振り返ると「数学・統計」「教養」が大事だった】

樋口 知之先生

インタビュー風景

Q.  最後に改めてデータサイエンティストを目指す学生に伝えたいメッセージをお願いします

樋口: 自分を振り返ると、学生の時に量子力学、統計力学、相対性理論を勉強できたことは凄い強味になりました。。

disciplineを学ぶことは重要だと思います。異分野の人と話し合えることや色々な価値感のある人と

話せる土台を築くことに繋がりました。それはデータサイエンスに直結するわけではないのですが、とても重要でした。

なぜなら、これからのデータサイエンスは色々な分野の人とコミュニケーションを図っていく必要があります。その時に数学・統計の知識と教養は必須で、分野跳躍力、分野転移力のような社会を動かす原動力の礎になると思うのです。

統計は分野横断的だと思います。アメリカでは統計学会は2番目に古い学会なのですが、やはりそこは色々なドメインと現場とのクロスポイントになっていて、健全な発展が行われる原動力です。

GoogleやAmazonに代表されるような発展した企業に見られるように、これからはアイデアが重要で、分野を超えられる力が個人において非常に重要な資質となると思うのです。大学はそういう教養を学ぶ最適な場だと思います。

具体で言いますと、分野を跨いでデータの説明をするときに、ヒストグラムを見せるだけでは説得力がなく、その背後にある論理立てやメッセージ、平均やメジアン、最頻値の「からくり」を知り尽くした上で適切な扱いをしないといけないのです。データの「からくり」を熟知した上、その分野の言葉に置き換えてデータの価値づけをすることが重要なのです。

またもう一点。学業に限ったことではないかも知れませんが、もっとアグレッシブになってよいと思います。私は先ほど(前篇参照)申しましたように赤池先生にアタックしたことがきっかけで、今の統数研所長を務めさせて頂いています。統数研に入れたことは本当に人生で一番嬉しい出来事でした。もちろん、その間にも色々な先生や関係者とのご縁があり、助けても頂きました。逆にハードルもありました。ですが、自分から動くことで打破してきたつもりです。

学生には「待ってちゃダメ。チャレンジせよ」といつも言っています。もっと学会で発表してほしいし、面白い研究会には自主的に参加してほしいし、(アポを取った上で)自分から売り込みに行くことを進めます。学会は10回発表したとしても全てが成果になるとは限らないし、それを前もって見極められないです。だとしたら数多く参加しないといけません。また人のネットワークも大事です。会って話すというリアルはバーチャルに勝てません。学生には「飲み会に出るのを好きですか?」と聞くほど、ネットワークを大事にしています。もちろんお酒を強要するわけではないですけどね(笑)。

 先生、ありがとうございました。

スキル委員

大変面白いインタビューでしたし、自分自身も背筋が伸びる想いを新たにしました。

樋口先生と楽しい会話をしながらも、改めて一企業人として自分が社会に貢献できることを進めて行きたいと思います。記事にはしませんでしたが、若い人たちの育成論についてディスカッションさせて頂き、色々と考えが浮かび、とても有意義な時間となりました。

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