2018.05.15

データサイエンスアワード2017最優秀賞受賞 産業能率大学様・東京地下鉄様インタビューvol.2

一般社団法人データサイエンティスト協会による「データサイエンスアワード2017」で栄えある最優秀賞に輝かれた産業能率大学様と東京地下鉄様に、お話を伺いました(全3回)。
vol.1はこちら
※「データサイエンスアワード2018」のエントリー受付を開始いたしました!(2018年8月31日まで)

––– 普通は、「いきなり数理モデルを作る」という話になるところを、理解できる人の育成から入るというのは、すごく珍しいケースだと思うのですが、この進め方は産能大さん側からの提案だったのでしょうか、それともメトロさん側の要望だったのでしょうか?

福中 最初はまさに、モデル作りだけの依頼をお伺いしました。もちろん、それだけを受注するというのも選択肢の1つだったのですが、それだけだとやっぱりその後の発展という点で、要は業務に根付かせるという意味で、難しいかなという考えが僕の方にありました。そこで、数理モデルを作る仕事は当然受けるのですが、それ以外に教育も一緒にしませんか、と。せっかく前年度軌道課と合同でやっていたので、継続して教育も一緒にやりませんかという追加のご提案をさせていただいて、ご理解いただけたので、同時に走らせることになりました。

––– どのくらいの期間のプロジェクトだったのでしょうか?

福中 1年かけてモデルを作りながら、並行して1年半かけた研修で、それを理解できる人を社内で育てるお手伝いをしました。ですから、モデルを作りながら、その分析結果も、教育の方で小出しにはしていて、分析結果のフィードバックをもらいながらモデルのブラッシュアップもしていったという側面もあります。

––– 何名ぐらいの方が、その1年半のプロジェクトというか、その研修を受けられたのでしょうか?

福中 人事異動とかがあり、途中で入ったり抜けたりというのが何度かあったのですが、トータルだと15~16名で、最初から最後までいたのは、5名ぐらいな感じです。その方たちが、今もキーパーソンとなって、仕事をご一緒にさせていただいています。

川上 昨年度(2016年度)、私が土木課長から研修の担当に異動になったので、もともと土木の方で、継続的に教育をしたいと思って予算を取っていたのですが、せっかくだったら電気分野や車両分野にも声を掛けて、今はデータサイエンティスト養成講座ということで、やっていただいています。

––– 研修は今も続いていて、元のプロジェクト自体は、2014年から始まって2015年の中頃に完了したということでしょうか。

福中 特許関係を申請したモデル化自体に関してはそれぐらいですね。ただ、その後もずっと継続して、今もやっている感じですね。

––– 常に改善させ続けながら?

福中 そうです。妥当性の検証とかの方に大分時間がかかっています。開発自体は1年で終わっていますが、その後、それをどう使っていくか、それが本当に正しいのかを検証していくプロセスが、ずっと継続して今期も来期もやるという感じですね。

––– 今、実際に開発された数理モデルで出す「θ値」に基づいてのトンネルの管理というものは実施されながらも、その検証を並行して続けているということになるのでしょうか。

小西 真治 氏

東京地下鉄株式会社
鉄道本部 工務部 土木担当部長
改良建築部 技術基準担当部長
小西 真治 氏

小西 そうですね。数理モデルは点検データを利用しています。東京メトロは、9路線あるのですが、国土交通省の通達で全ての鉄道事業者は2年に1回必ず点検をやらないといけないので、その点検結果のデータがどんどん上がってくるので、入力データが増えていっているわけですね。同じ路線での2年前の点検と今回の違いや、違う路線間の点検結果のバラツキといったものが、このモデルに入れることで定量化されて、同じ平等な目で比較ができるようになります。

––– 今は9路線全部が、データに基づいて管理されている状況なのでしょうか?

福中 9路線全部はまだですね。順次展開中で、現在で 6路線分ぐらいです。

––– 導入以前と以後で、何か大きく変わったことはあるのでしょうか?

川上 土木で検査した結果や、補修の結果は、今までは特定のセクションのベテランや担当者に暗黙知的に蓄積されていました。それが、θ値だとか、その他可視化されたいろんな分布図だとか、そういったものを全部見て、1路線の検査が終わるごとに、実際に現場で検査をした社員から計画や設計、技術研究をする本社の社員まで、また、若い人からベテランまでが集まって、きちんと議論して、例えばどこの区間を工学的に調査を実施するのか?とか、どの区間を優先的に補修をするべきか?又は、どこに大規模な補強工事が必要なのか?等の維持管理の方針を作って、説明力をつけていくというような取り組みに変わりました。その結果として、維持管理の質が上がったのではないかと思います。

小西 今まで点検データは、国から定められた必ずやらなければいけない検査で生み出されるもので、それで悪いところを見つけて、そこをパッチワーク的に直すっていうルーティンワークにのみ使って、それ以外には使わずに捨てていました。膨大なデータを、です。それを別の使い方をする。ある区間大規模に直すとか、そういう判断に使うようになったというところがあります。

川上 例えば、普通に修繕だけすればいいところと、大規模に補強とかしていかなきゃいけない区間があって、大規模に補強するには相当なお金がかかるし、その投資をどうするのかという意思決定について、今までは暗黙的に特定のセクションの考えに依存して決定されていたものが、定量的なデータや、変状箇所の集中度合いが可視化された図があって、みんなで議論することによって、本当の優先度が高いところの特定とか、投資の優先順位だとか、投資判断が非常に明確になるようになりました。

––– (受賞プレゼンにあった)MMMシステムというのが、その可視化のシステムを指すのでしょうか?

川上 もともと、検査データや修繕データを蓄積し、それを可視化して、更に統計分析を行って事業計画に生かすところまでを含めた全体のコンセプトをそう呼んでいます。例えばそのうちのデータ収集・蓄積の部分は、今まで現場で用紙とデジカメで記録し、帰ってきてからエクセルに入力していましたが、iPadの専用アプリを開発してその場で過去データを参照しながら、構造物の状態を判断し、その結果を入力できるようにしました。現場で過去の検査データを参照することで、変状の進行度合いの確認が確実に出来ることに加えて、例えば写真を撮るときも、過去の写真を小さなウインドウに表示しながら、同じ場所・アングルから今の状態の写真を撮り易く出来る等の効果もあります。

そうして収集されたデータは、すぐにサーバーにアップロードされ、整理した状態で出力が可能になったため、今まで検査結果の共有まで3カ月要していたところが、翌日には、本社や工事所で共有できるようになりました。そして、蓄積されたデータをいろんな形で可視化をする部分、例えば駅間の変状集中度合いを色別で表示したり、駅間で過去に投入した修繕費の金額をグラフで比較して見られるとか、そういった可視化のツールというのがもう一つの構成要素です。ここに、もうちょっと進んだ統計分析を使って、ちゃんと定量化するというものを併せて、一つのシステムになっています。ですから、MMMというコンセプトは、検査の入力、検査結果の評価、補修計画の立案、補修の実績登録・管理、そして統計分析による構造物全体の評価や、将来予測まで、全部ひっくるめているということです。

––– それを、川上さんが土木課長時代に構築されたわけですが、それなりに投資が必要だったと思います。その構想の実現について、トップの経営判断として、ここはやるべきだという承認は、割とすんなりいったのでしょうか。

川上 本当に大規模な投資かといえばそうでもなくて、小規模なパーツを小刻みに、その効果を確認しながら組み上げていったので、一発ではそんな大きい金額にはなっていません。

––– こちら(研修センター)でデータサイエンティスト育成の研修もされているということで、社内の色々なところでこのデータサイエンスに基づく取り組みが、普及しつつあるような状況なのでしょうか?

川上 そこは機能別組織の特性から、まだ縦割り色が残っております。ICT戦略部というのがあって、そこが全社のデータをちゃんと蓄積して共有できるような仕組みを現在構築しているところなのですが、構想が大きい為に実現までには結構時間がかかると思います。それを待っていては時代に取り残されてしまいますので、我々みたいな限られた分野で、そんな大規模な投資も必要とせずに、小回りの効くやり方でポンポンポンポンとやって、あとになってから全社の方針にすり合わせていかなきゃいけないかなと思っています。

また、現在は人事部として会社全体の人財育成を考える立場から、いわゆるデータサイエンティスト、本当に統計分析できる人ではなくてもいいので、今自分たちが抱えている課題と、持っているデータでどういう意味合いが出せるのか、という事を考えられる人財を、様々な部門に、脈々と少しずつでもいいから育てておく事は必要かなと思って取り組んでいます。

––– 御社の場合は、どこかに集中的に分析の知見を有した人を集めた専門部署を作るというよりも、各部署部署にそういう統計的な素地がある人をどんどん増やしていくということを、やられているっていうことですか。

川上 現時点では、それが、いいかなと思っています。

福中 取り組ませていただいている教育に関しても、そういう考えをもとに、本当に深く分析ができる人材のための教育という、土木課でやらせてもらっているような教育ではなくて、もっと広く浅く、どうデータを活用していけるのかという部分にフォーカスしています。いざとなれば、専門家を呼んでいただいて、それで社内の事業課題とかを、データ解析の視点から解決できるようなコミュニケーション力に近いものですね。そういうものを育てられるような教育を、やらせていただいています。

––– 仕事柄、いろんな会社とお話をしているのですけれど、そこまでちゃんと会社におけるデータ活用について方針を持って、丁寧に人材を育てて何とかしていこうという会社にあまりお会いしたことがないので、正直御社の取り組みには驚いています。このような考え方は、東京メトロさんに、もともとあったカルチャーや伝統に由来するのでしょうか?それとも川上さんや小西さんとかの独自のお考えが強いのでしょうか。

小西 私じゃなくて、川上さんが伝統をぶち壊しているんじゃないかな。

––– やっぱり伝統があるわけじゃなくて、割と新しいタイプの取り組みなのですね

小西 新しいタイプですね。

川上 あと小西部長がメトロに来てくださってから、やっぱり技術力を高めていこうという流れを作ってくださっていて、学会に積極的に出ていくことが出来ています。それも学会や研究のために仕事をしようということではなくて、普段我々が一所懸命やっている仕事が、実は世界の最先端であるということを、小西部長が社員に教えてくださろうとしています。普段やっている仕事を発信していくという立場で、人を育てているという流れを小西部長は作ってくださっています。

小西 データサイエンティストとは、ちょっと違うのですけど、私はもともと鉄道総合技術研究所にいて、5年ほど前からメトロにお世話になっているのですが、メトロの人は、自分たちがやっていることはすごいことだって分かってないのですね。というのも、外に発表しないし、外の付き合いも少ない人が多かったので。僕が見たらすごいことやっているなと思うので、「これ、発表しましょう」と。もちろん、発表すれば、批判もあるかもしれないし、いろんな意見が出てくるかもしれないけれど、「そうすることによってもっと良くなりますから」ということで、そういうようなことはどんどんやっているのですね。

面白かったのは、今回の福中先生にやってもらった数理モデルも、土木学会で出しましょうと流れになって、流石に、私の専門のトンネル屋でこれが分かる人がいるかなとすごく心配で(笑)。実際、最近ちょっと広まってはきているけれども、まだまだ分かっている人は少ない感じはします。これからどんどん広まって行くのじゃないですかね。

川上 小西部長は、この取り組みをやろうとしたときに、「そうだね、そうだね」と応援してくださるし、違う領域ではむしろ率先して新しい試みをやってくださっています。その先進的な考えの方が上司であったから出来たのだと思います。

––– そういう意味では、お二人が一つの部署にそろった事は、メトロさんにとってもすごく幸運だった、ということなのでしょうね。

川上 小西部長がいたから、というふうに思っています。

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