2018.12.19

Beyond Real X  ~データ&テクノロジーの活用でリアルチャネルを超える顧客体験を目指して!~

近年、損害保険業界においても、デジタルテクノロジーを駆使した新しいサービスの創出や、顧客のライフスタイルの変容への対応が求められている。そこで世界最大級の保険・資産運用グループであるアクサグループの一員であり、「アクサダイレクト」のブランドで知られるアクサ損害保険では、2014年の組織改編に際してデータ分析の専門部署を立ち上げ、以来、本格的にデータ活用に取り組んでいる。今回は、同社 データエクセレンス本部 データストラテジー部 寺島尚秀 氏に、部署の立ち上げの経緯についてお聞きするとともに、損害保険業界および同社におけるデータサイエンティストの役割、そしてどんな人材が求められているのかについて伺った。

アクサ損害保険株式会社

今回のキーパーソン

寺島 尚秀氏
アクサ損害保険株式会社 データエクセレンス本部 データストラテジー部 部長

寺島 尚秀氏

データサイエンティストに求められるポイント

  • ビジネスへの貢献を第一に考えている
  • 必ずしも保険業務に詳しい必要はなく、他業界の知見を応用するセンスが大事
  • 常に新しい技法や技術の取得に貪欲である

 

顧客サービスの洗練と競争力の強化を目指し、データ分析系部門を拡充・再編、そして本部設立へ

損害保険会社にとって、アクチュアリー系の業務は企業としての財務の健全性を担保し、保険金などの支払い能力を確保するとともに、保険料率の算出など収益構造の分析や商品の開発に欠かせない存在である。そのためアクチュアリー部門には長い歴史があり、現在のようにデータサイエンティストの役割が注目を集める前から統計的な手法を駆使してきた。

一方で、アクサ損害保険は通販型の損害保険会社として、広告、Eメール、電話やWebページでの顧客の行動など、ビッグデータの活用を目的として、2014年にデータ分析の専門部署を立ち上げ、KPI可視化による経営判断の高度化・迅速化や、マーケティング投資活動の最適化を進めてきた。さらに2018年には、顧客サービスの洗練と競争力の強化に向けて、データ活用および価値化の実現を加速するため、データエクセレンス本部を設立したのである。

データエクセレンス本部では「Beyond Real X」というVisionを掲げ、データ&テクノロジーの活用でリアルチャネルを超える顧客体験の実現を目指している。データ分析を通じて顧客や事業部門のニーズを明確に定義し、分析結果を実際の業務に応用し、顧客にとって価値あるサービスを創出することや、AI・機械学習など高度で科学的なアプローチを強化するための最新のテクノロジーや分析手法の調査、プロトタイプの開発を通じて、ビッグデータを活用した技術の開発を担う。

損害保険業務においても活躍が期待されるデータサイエンティスト

オンラインで事業を展開するダイレクト保険事業は、データサイエンスとの親和性が高く、Web広告やEメール配信などのマーケティングの領域でも活用できる。例えば、Webもしくは電話による見込客の最初のコンタクトから、どのような行動・経路で保険商品の購入に至ったのかをデータ化し、顧客属性ごとに分析することができるようになる。その結果、顧客のニーズをより深く理解できるようになり、パーソナライズされたサービスの提供や業務の効率化が可能になる。

その他、損害保険業務のさまざまなシーンにおいて、データサイエンティストの活躍が期待できるだろう。コールセンターや保険金支払業務の分野であれば、より質の高いサービスを提供するために、顧客接点におけるさまざまなデータを収集・蓄積し、適切な人員配置を行ったり、支払保険金の状況を把握して、最適なサービスを提供することが可能になる。また、プライシング(料率設定)の分野で、アクチュアリーがデータサイエンスのノウハウを活用することも考えられるし、アクチュアリーの業務をデータサイエンティストが支援することもできるだろう。

寺島 尚秀氏

理数系の大学院生を中心としたインターンが常時活躍

こうした期待もあって、アクサ損害保険ではデータサイエンティストの採用にも意欲的だ。分析すべきデータは加速度的に増えつつあり、優秀な人材の獲得・育成も続けていく必要があることから、同社は2014年からインターンシッププログラムをスタートさせた。

同社のインターン募集要項は次のようになっている。

・ 職務内容:顧客の属性・行動データをもとに統計的手法・機械学習を用いてカスタマーエクスペリエンス、売上、利益の最大化を目指す

・ 応募資格:大学で磨いてきたスキル(統計・機械学習)がどのくらいビジネスにインパクトを与えるかに興味がある方(RまたはPython経験必須)

インターンプログラム詳細: https://www.axa-direct.co.jp/company/recruitment/internship/

応募した学生にとっても、ビジネスの世界で自身のスキルを試しながら、どの程度まで通用するのかを確認したり、現場で求められているスキルを目の当たりにしたりできるといったメリットがあるため、同社では常時10~20人のインターンが活躍しているという。

採用されたインターンは、その適性、希望によりテクニカル本部の各部門に配属される。例えば、データストラテジー部やデータサイエンス部であれば、ビジネスの課題をデータサイエンスによって解決し、カスタマーエクスペリエンスの向上や売上・利益の底上げを目指す。テクニカルプライシング部であれば、最適な保険料設定のために顧客ごとの「期待損害額」や「保険料変化に対する顧客の価格感応度」を予測する数理モデルを開発し、その精度を向上させ、モデル構築の自動化・効率化を図るといった具合だ。

「基本的には理数系の大学院生をインターンとして採用しています。統計学を学んでいるのであればアクチュアリー系の分析を行ってもらうこともありますし、コンピュータサイエンス系であれば、マーケティングの分析に取り組んでもらったりしています。たとえ損害保険の業務に詳しくない人でも、例えばWeb広告の最適化によるコンバージョン改善などの取り組みであれば、やるべきことがイメージしやすいですし、そうした入口からスタートし、徐々に保険商品のプライシングといった専門的な分析へ興味を持ってもらうことを期待しています」

インターンの活動は現場での成果にもつながっており、数週間の取り組みで収益改善に結びついたこともある。そこでの経験にやりがいを感じ、インターンから社員になるケースも少なくないという。

 

中途採用にも積極的、他業種からの転職組も

アクサ損害保険はデータサイエンティストの中途採用にも積極的であり、随時募集を行っている。その際、重視しているのは「ビジネスへの貢献」に対する意識だという。

同社の契約数は100万件を超えており、顧客ごとの属性情報が揃っている。また、電話による年間の問い合わせ数は150万コールに達するが、こちらもデータとして蓄積されている。さらに顧客や見込客のWeb上の行動履歴などのデータもふんだんに揃っている。こうした大量かつ質の高いデータを活用して高度な分析が行えることから、同社はデータサイエンティストにとっては魅力的な職場であるといえる。

「しかしながら、損害保険業界では個人情報の扱いについて金融庁による厳しい指針があります。また、マーケティングの分野でよく用いられる割引も一部でしか認められていません。こうした制約がある中で、単に分析のスキルを極めていくのではなく、ビジネスに新たな価値をもたらしたり、サービスを改善するための仮説構築や検証した仮説のサービス化の実現に力を注げる人材を求めています」

もうひとつ、同社が人材の採用に際して重視しているのが「スキルアップのスピード感」だ。4年前、同社でデータ分析部門が立ち上がった際には、Rの使い手は二人、Pythonは一人だけだったという。それが今日では、それぞれ数十人にまで増えている。

「そういう意味では、RやPythonが使えることは必須ですね。ただ、3年後には新しいプログラミング言語やツールが普及していて、これらを使わなくなっている可能性もあります。ですからスタッフには、常に新しい技法や技術の取得に貪欲であってほしいと思います」

その逆に、損害保険業界の知識については不問としている。まったく異なる分野でデータ分析を行ってきた経験を持ち込んでもらうことで、コラボレーションによる相乗効果を期待したいと考えているからだ。実際、化粧品メーカーや分析系のコンサルティング会社からの転職組も活躍しているという。

データサイエンティスト協会の活動に協力して、社内のデータ活用リテラシーを高めたい

アクサ損害保険が4年前に部署を立ち上げた際は、データサイエンスの価値創出とデータサイエンティストが活躍できる環境を整備するところからスタートした。

「まずは実績を作っていく必要があると考え、データ分析の効果が比較的出やすく、経営層の評価にもつながりやすいマーケティングの分野から取り組みを始めました」

そして保険商品・サービスの分野で注目したのがテレマティクス保険である。これは、最先端のデジタル技術を用いて自動車に搭載された各種センサーからドライブデータを収集することで、運転者ごとの安全運転スコアを出し、その結果に応じて保険料金を割引するという仕組みだ。これを実現するためにはビッグデータを用いて、リスクを計算する必要があることから、データサイエンティストが活躍する舞台となった。

こうして徐々にデータサイエンスの実績を積み上げ、予算も獲得できるようになったが、スタッフからは「分析する対象を広げたい」「他の手法にも興味がある」「もっと腕を磨きたい」といった声も上がってきた。そこで同社は2018年、全社的なデータ活用リテラシーを高めていくため、データサイエンティスト協会に入会した。

「他社・他業界の育成プログラムや研修制度に興味がありましたし、データサイエンティストの活躍のために具体的にどのような取り組みを行っているのか、いろいろと学びつつ、私たちにできることをやっていきたいと考えたのです。今後も協会の活動に協力しつつ、社内のデータ活用リテラシーを高めていきたいですね」

 

アクサ損害保険株式会社
設立:1998年6月
所在地:東京都台東区寿2-1-13
代表者:代表取締役社長兼CEO ハンス・ブランケン
事業内容:損害保険業
URL https://www.axa-direct.co.jp

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