2026.05.27
【イマドキのデータサイエンティストに迫るvol. 8 前編】
データサイエンティストの業務内容や働き方の実情を、多くの人に正しく知ってもらいたいと考え、企画を始めたインタビューシリーズ。
第八弾は、日本航空株式会社のマーケティング戦略部 顧客データ戦略室でデータサイエンティストをされている、森口 翼さんにお話を伺います。
―まず自己紹介をお願いいたします。
森口さん: よろしくお願いいたします。日本航空の森口翼と申します。2021年に滋賀大学のデータサイエンス学部の一期生として卒業し、日本航空(以下JAL)に入社。現在は入社5年目で、3部署目です。入社1年目は羽田空港でグランドスタッフをしており、現場視点や顧客視点を1年間かけて養いました。
2年目のタイミングからマイレージ事業部に異動。1年目に社内のビジネスオーディションに応募し、執行役員に対して提案をさせていただきました。提案内容は、以前CM等でもPRされていたマイレージを活用した新アプリです。2年目からは、そのマイレージアプリの開発と、データドリブンにマーケティングしていく取り組みをマイレージ事業部で担わせていただきました。
そして今年からは顧客データ戦略室という部署へ異動し、全社のデータサイエンスを推進しています。こちらも私自身が希望を出して異動となりました。事業会社では受動的な人事異動も多いですが、私の場合は能動的な姿勢でキャリアを切り開いてきました。
―なるほど、森口さんがマイレージアプリを提案されたのですね。
森口さん: はい。ビジネスオーディションで提案しましたが、率直に申し上げますと提案だけではなく社内調整の要素も相当ありました。
大きな事業会社では、意思決定において関係者の巻き込みが非常に重要です。私にとってはそれをどう活かすか、が重要なポイントでした。
私はコロナ禍に入社しており、当時は飛行機がほとんど飛んでいない状況でした。就活当時は大手IT企業や広告代理店など複数社から内定をいただき、最後は大手飲料メーカーとJALでどちらに行くか迷いました。
周囲からは「JALではなく大手飲料メーカーにしたらどうか」と言われることもありましたが、私としては、社会情勢に左右されず「飛び続けられる航空会社をつくりたい」という思いがあり、あえて逆境に立たされていた当時のJALへの入社を決めました。「飛び続けられる航空会社」を実現するため、「日常で稼ぐ」仕組みをつくる一つの手段として、アプリを起案した流れです。
―なるほど。森口さんが思いを持って進めた提案だったのですね。起案から実現まで、かなり難しかったのではないでしょうか。
森口さん: 本当にそうですね。提案を事業化するために、本社の前でマイレージ部門の方が出てくるのを待ってヒアリングしたこともありました。
その中で、「現在、マイレージ部門が求めているのはこういう方向性で、そこに合うアプリはこれだ」という仮説が固まり、1年目ながら執行役員に対して有益な提案をすることができました。その結果として異動につながった、という形です。

―少し話は戻りますが「飛び続けられる航空会社をつくりたい」とお話されていました。具体的にどのようなイメージでしょうか。
森口さん: 「社会情勢に負けない航空会社」という意味です。
コロナで航空会社は大打撃を受け、赤字が続く状況もありました。そのような状況下で私は、ボラティリティ(変動)の低い事業を持つことが重要だと考えています。
航空以外の領域でもしっかり稼げる仕組みがあれば、仮にまたコロナや震災などの大規模災害で旅行需要が落ちたとしても、稼げる航空会社になれる。そういう意味で「飛び続けられる航空会社」という言葉を使っています。
―就職活動では、「飛び続けられる会社をつくりたい」という思い以外にも決め手となったことはありますか。
森口さん: はい。最初はデータサイエンティストとしてキャリアを築くことを意識し、コンサルティング会社やIT系企業も見ていました。
同時に「自分の人生の豊かさとは何か」を考えたとき「人とのつながりの中で自分が生きてきた」という感覚が強くあることに気づきました。
仮に飛行機も飛ばなくなり、島国の日本が世界とのつながりを失ってしまうことがあるとしたら、それは自分が最も避けたい未来だと感じました。
もう一つの決め手はJALのスローガンです。私はずっと「キャプテン翼」になりたくて大学までサッカーをしていましたが、高校も大学もずっと副キャプテン止まり。そこへ「明日の空は、日本の翼」というコーポレートスローガンを掲げるJALが出てきたことも、大きな決め手になりました。
―大学時代はどのようなことを研究されていたのでしょうか。
森口さん: 滋賀大学データサイエンス学部では、卒業研究としてテナント型商業施設を運営する企業との共同プロジェクトに取り組みました。お題は「商業施設における顧客離脱抑止」で、先方からアプリログを提供いただき、分析し施策に活かすといった内容です。
私のゼミは、元大阪ガスのデータサイエンティストである河本先生のもと、複数企業と連携しながら実データを扱う実践的な研究形式でした。現在JALで扱うマイレージアプリは新規要素が強く、本研究は既存アプリを伸ばすという点で課題は異なりましたが、学生時代に勉強したことを活かすことができました。
―データサイエンスに興味を持ったきっかけを教えてください。
森口さん: きっかけは「大学までずっとやってきたサッカーでプロになれなかった」という話が発端です。「ナンバーワンではなくオンリーワンになって生きていこう」という思いが芽生え、日本で初めての学部でパイオニアとして学ぶことに価値があると考えました。それがたまたまデータサイエンスでした。
高校からデータサイエンスが大好きだったというよりは、オンリーワンになる手段として選んだという感覚です。
ただ、祖父が数学の教員だったこともあり「データサイエンス」という横文字への抵抗感は、あまりありませんでした。
―現在の業務内容について詳しく教えてください。
森口さん: JALは会員基盤が非常に大きく、その会員基盤から得られる顧客データ、例えば搭乗データやJALカード(クレジットカード)のデータ、マイルをためる各種サービスのデータなどを組み合わせながら、お客さまが何を考えているのか、次に搭乗していただくためにどのような行動を促せばよいのかといったインサイトを見つける分析を行っています。
私のポリシーとして、データサイエンティストの仕事は「分析をする」だけではないと考えています。
時には新しいサービスを提案することや、課題そのものを再定義するような取り組みもデータサイエンティストの重要な役割だと思っています。
最近は一次情報の重要性を強く感じており、社内プログラムでアメリカのシリコンバレーに訪れ、現地の起業家やスタンフォード大学・UCバークレーの方々と意見交換しながら、JALにとってのイノベーションとは何かを探る活動にも取り組みました。
現在はインバウンド(訪日外国人)領域の分析を担当しており、事業軸ではなく顧客軸で捉え、海外向けマーケティングにおける顧客理解を進めています。
―入社前に想像していた仕事内容と入社後の仕事内容は一致していましたか?また、苦労したことはありますか。
森口さん: 一番のギャップは、意思決定につなげる難しさです。
「役に立つ分析」と「分かる分析」は全く違います。意思決定につなげるためには、社内の体制、タイミング、世の中の情勢などが揃って、ようやく役に立つ分析になることも多い。想像以上に泥臭い仕事ですが、楽しみながら取り組んでいます。
そのヒントになったのが、シリコンバレーでの体験でした。
スタンフォード大学の教授と話した際、日本企業の意思決定者を動かすために、関係者同士のつながりをマインドマップのように整理しながらアプローチを設計していると教わりました。
意思決定者が誰とつながっているのか、その人が信頼している人物から働きかけた方が良い場合もあるなど、意思決定の構造を真剣に考える体験でした。そうした考え方も参考にしながら、現在の業務においても意思決定につながる分析のあり方を模索しています。
―そのような難しさがある中で、面白いと感じるポイントはどこでしょうか。
森口さん: 関わる人の幅が増えるのは純粋に楽しいです。
データサイエンティストはどの業種にも共通する共通項があり、さまざまな方と関われるのが魅力です。
またJALは多様性が大きく、パイロットの仲間もいれば、客室乗務員、グランドスタッフ、技術系でボーイング787などの機材を整備する仲間もいます。専門性の違う方々が、一つの飛行機を飛ばすためにチームワークを発揮する。そのチームワークがとても美しいと感じています。
私もグランドスタッフを経験しているので現場にも知り合いがいます。アプリをつくる上で入会接点は現場にありますので、「現場では今どういう状況か」「どのような設計にすると入会のハードルが下がるか」といったことを現場のメンバーから聞きながら進められるのは、専門性と多様性を活かしたチームならではの面白さだと思います。

<後編へ続く>

取材日:2026年1月29日
インタビュー:
データサイエンティスト協会 企画委員会
株式会社分析屋 池田
ライター:
株式会社BICP DATA 山田
株式会社Hi-Lights 清水
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日本航空株式会社 森口 翼(モリグチ ツバサ)氏
26歳 新卒入社
マーケティング戦略部 顧客データ戦略室
データサイエンティスト歴:4年