2016.05.17

データサイエンスアワード2015最優秀賞受賞 全日本食品株式会社様インタビューvol.1

昨年初めて開催された一般社団法人データサイエンティスト協会による「データサイエンスアワード2015」で栄えある最優秀賞に輝かれた全日本食品株式会社様に、受賞理由となったデータ分析によるサービスの継続的な改善への取り組みについてお話を伺いました。パパママショップを束ねた全国規模の食品ボランタリーチェーンという独特のビジネスモデルでレギュラーチェーンに対抗するため、情報システムとデータ分析を駆使して生み出された、生活者に対するワン・トゥ・ワン・マーケティングや加盟店に対する個品単位での自動発注や価格最適化のシステムについて、その実現の経緯と効果、それを支える体制、今後の展望をお話いただきました(全3回)。

※「データサイエンスアワード2016」のエントリー受付を開始いたしました!(2016年8月31日まで)

恩田 明 氏、宇田川 貴志 氏

全日本食品株式会社
情報システム本部 本部長
上席執行役員 恩田 明 氏(写真右)

全日本食品株式会社
マーケティング本部
副本部長 宇田川 貴志 氏(写真左)
※所属役職は取材当時のもの

––– 本日はよろしくお願いいたします。
まずは、会社のご紹介というか、ビジネスの概要からご説明をお願いできますでしょうか?

恩田 全日本食品株式会社は、全日食チェーンといわれる食品小売りのボランタリーチェーンの本部の運営をなりわいにしています。もともとのボランタリーチェーン自体が、小売店主体で、共同仕入れによって安く仕入れて、それを組合員に還元していこうというところから始まって、もうはや53年という形になります。

全日食の歴史はそれら協同組合の統合の歴史です。全国に様々な形の協同組合のようなものがあった中で、それらの淘汰が進む過程で全日食だけがいろんな地区の協同組合と統合していきながら、最近で言うM&Aの本当にはしりみたいな形で協同組合をずっと束ね続けてきた結果、今の全国規模があるということです。実際、協同組合が株主であるため、利益を基本的には加盟店のほうにフィードバックしていくというところがわれわれの、通常の事業会社と違うところであります。

実際にわれわれのやっていることとしては、商品の仕入れ、特に食品、雑貨含めてスーパーマーケットで売っているものを安く仕入れて、加盟店のほうに提供するというのがまず一つ。それから、リテールサポートと呼んでいる、スーパーバイザーがお店に対して売り場指導であるとか、商品紹介であるとかを通じて、実際のお店の売り上げをアップさせるための指導をしていくというのが一つ。あとは物流で、われわれ自身でトラックを所有しているわけではないですが、各社と個別に契約した上で、基本的には自社物流という形で日本全国、北は稚内から南は西表島まで、商品や値段も同じ条件で、極端な例では1個から運んでいくというのが非常に特徴的なところです。

私どものお店は本当に規模の小さなパパママストアが中心で、当然お店のバックヤードに在庫を持てないというようなお店さんが多うございますので、(大手の卸業者ではケース単位でないと取引を受け付けないところを)個口でものを届けるということをしています。

––– そのようなビジネスを展開される中でデータ分析はいつからどのような目的で始まったのでしょうか?

恩田 ここ数10年来、小売業においてお店の経営の精度と効率を高めるため、レギュラーチェーンでいえば各種標準化と教育ということが非常に重要視されてきたと思います。一方で、(パパママショップの集合体である)ボランタリーチェーンではどうしても教育は行き渡らない部分が出てしまう中、前社長(現会長)の齋藤が、レギュラーチェーンと同様な精度と効率を求めていくため、情報システムとデータを駆使していくことを標榜し、2000年代初頭に取り組みを始めました。

––– どのように進めていかれたのでしょうか?

恩田 当時の情報システムとしては、ID付POSも導入していませんでしたので、いろいろとIT投資という形で、本当に様々な試行錯誤を通じて、基幹システムからPOSの仕組みまで、われわれにすれば大きな資金を投じてすべての環境を整えていきました。特にPOSに関しては、英国ではテスコ社とかセインズベリー社、アメリカだとターゲット社などが使っている、おそらく世界でシェアが一番高いPOSパッケージのイスラエルのリタリックス社(2012年に買収されて現在はNCR社)製のPOSパッケージを日本で初めて導入して、いち早くワン・トゥー・ワン・マーケティングをわれわれは追及していきました。

マスマーケティングの時代から、お客さま一人一人個別に、商品も販促も訴求していくということが個の時代に求められる一番重要な要素だろうと思いがあり、それを小売りの世界でちゃんと実現していこうとする過程で、データと情報システムの駆使につながっていった形になります。

––– 具体的にどのような仕組みなのでしょうか?

恩田 一番大きな仕組みが、ZFSPと呼んでいるものでして、FSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)に全日食のZを付けたものなのですが、全日食のワン・トゥー・ワン・マーケティングの仕組みとして、お客さま一人一人に対して「あなただけのお得なサービス」という名称で個別にチラシを出しています。新聞などに入れられているチラシは、基本的にはお店が売りたいもの、またはお店が買ってくれるだろうと考えて、大量に仕入れたものを安く出して、万人に告知するためのものですよね。しかし、最近はやはり新聞も読まなくなっていますし、チラシの効果が非常に薄れてきている中で、われわれがどうしたかというと、来店されたお客さま一人一人に対して、そのお客さまの購買履歴を元に、いつも買われているものを(個別チラシで)安くするというアプローチをとりました。つまり、お客さまにすれば、次に来るとよく買っているものが安くなるという事が分かれば、また行こうというモチベーションになりますので、非常に集客の効果が高いです。

––– その個別チラシは一人一人に郵送されるものなのでしょうか?

恩田 レジで、その場で配ります。毎月1回、その月に初めて来店されたときにレジ上に発券してくださいというメッセージが出るので、それを見てレジ横にある専用機にお客さまのカードを入れて頂くと、これが一人一人違った内容で出てくるという仕組みになっています。

これはその個別チラシのサンプルですが、「卵が今月2パックまで5ポイント」となっているので、3パック以上はポイントが付かないと、そういう仕組みです。このお客様の場合は、前月に卵とかウインナーとかを買っていたので、こんな感じで(対象商品が)上に印字されている訳です。いつも買っているものが安くまた買えるので、またそのお店に行こうという動機付けになる。通常のチラシの場合だと、どれを買おうかという感じでみるものになっていて、いつも買ってないものが載っていたってそれ自体がお店に行こうというモチベーションにならないですよね?
それと、このカードを提示さえいただければ、個別チラシを持参する必要はなく、割り引いたりポイント付与したりをPOSレジが自動的に対応しています。チラシは今月のお得情報のご案内をするだけの役割です。

レシート

––– お得情報は、購買履歴にある商品だけで埋められているということでしょうか?

宇田川 さすがに、全部が全部、全員のチラシが購買履歴あるの商品では埋まりません。月に1回しか来ないお客さんもいらっしゃいますし、2カ月に1回という方もいる。それでは、さすがに、埋められないのですが、やっぱりその方が買ったことのある商品は、個別チラシに載せると30%~40%ぐらいが再度購入いただけます。ポテトチップスの購入履歴のある方に炭酸飲料といった感じの関連商品の掲載もやっていますが、それで購入確率が大体5パーセントといった感じです。売れ筋を載っけても購入いただける確率はたったの1パーセント。つまり、超売れ筋といわれるものを進めても、ぜんぜんお客さまは反応しないのです。

恩田 日本人の特性なのか分からないのですが、すごく食に関しては保守的で、いつも買うものを買う傾向がやはりあるのだと思います。

––– 店舗利用される多くの方がそのカードを持たれているのでしょうか?

恩田 通称「全ちゃんカード」というID付きの会員カードなのですが、これを実は配っています。会員登録いただくのではなく、一方的にIDカードを渡しているのです。ですから、個人情報は一切取っていません。通常のスーパーさんでは、会員登録として、住所・名前・家族構成とかを書いてもらいますよね。当チェーンでは、そこを一切なしで、これを配っています。レジで「会員カードをお作りになりますか」とご案内すると、大体半分ぐらいは「要らない」と応えられてしまいます。そこを、「これお使いになりますと安くなります」と言って渡せばみんな受け取ってくださる。

われわれの目的は「ID付きのデータをいかに集めて活用するか」なので、属性データは要らないと割り切って履歴データだけで全てができるようにサービスを企画しています。これは、小売りの特徴でもあると思います。メーカーさんは、「何十代主婦をターゲットにした商品」といった形で商品開発をされると思うのですが、小売りは極端な話、それはどうでもいいのです。50代の僕が買いに行ったって、実際にかみさんから頼まれた買い物リストで買えば40代主婦の買い物になるわけですから、関係がないのです。だから、何を買ったか、何がそのお客さまが買う特性があるかっていうところさえが分かればいいということなのです。

恩田 明 氏

––– この仕組みを実現する上でリタリックス社のPOSレジが必要だったのですか?

恩田 日本製のPOSは、商品コードがメインキーになっていて、通常価格に対して会員価格というものをせいぜい10レベル位しか設定することしかできない。これでは、会員毎に商品の価格を変えるということはできないので、われわれの目指すワン・トゥー・ワン・マーケティングは実現ができなかった。その点、リタリックス社のPOSは、100万人いたらひとつの商品について100万通りの企画を出すことができます。まぁ、実際の導入は日本語化もされていない段階だったので、本当に大変だったのですが(笑)

––– 今後の展開などを教えていただけますか?

恩田 2016年9月をターゲットに、この個別チラシの情報が全部スマホに載るようにします。今までは、カードさえあれば特典を受けられるため、皆さん大体このチラシを捨ててしまわれて、どの特典がどのぐらい残っているのかがわからなかったのですが、これを全部スマホからお客様ご自身で確認できるようになります。
加えて、店から今日これを売りたいとかっていうのがあったら、例えば、いい枝豆が入ったと。じゃあ、その枝豆が過去に履歴ある人にバンッと送っちゃおうとかっていうようなことができるようになります。これまでは、個人情報をとっていなかったためにメールなども送れなかったのですが、アプリのプッシュ通知でそれが可能になるので、最近の言葉で言うオムニチャネル対応みたいなこともやれるようになります。

Vol.2「データを活用したプライシングや自動発注」はこちら

撮影 江藤 耕治

カテゴリ
アーカイブ
記事アクセスランキング
タグ