2016.06.01

データサイエンスアワード2015最優秀賞受賞 全日本食品株式会社様インタビューvol.3

昨年初めて開催された一般社団法人データサイエンティスト協会による「データサイエンス・アワード2015」で最優秀賞に輝かれた全日本食品株式会社様に、受賞理由となったデータ分析によるサービスの継続的な改善への取り組みについてお話を伺う第3回目(全3回)。最終回となる今回は、現在向き合っておられるビジネス課題とデータ分析に関連する今後のチャレンジについてご説明をいただきました。

データを駆使したボランタリチェーンの独自のビジネスモデルを紹介したvol.1はこちら
日本チェーンストアの前年同月比を上回る成果などを挙げているデータを活用した店舗支援策を紹介したvol.2はこちら

恩田 明 氏、宇田川 貴志 氏

全日本食品株式会社
情報システム本部 本部長
上席執行役員 恩田 明 氏(写真右)

全日本食品株式会社
マーケティング本部
副本部長 宇田川 貴志 氏(写真左)
※所属役職は取材当時のもの

––– 貴社のビジネス課題について伺いたいのですが、そもそも食品のボランタリーチェーンの競合というのは存在するのでしょうか?

恩田 食品の中でボランタリーチェーンというと、プライベート・ブランドのプロダクトを共同で作って加盟店に売ってもらおうという形態が多く、加盟店の企業体規模も大きいものが多い。われわれはどちらかというと本当に中小零細といわれてしまうような規模のパパママストアが主体です。少し余談になりますが、今、卸難民っていう言葉があります。買い物難民っていう言葉はよく聞くと思うのですが、卸難民っていう言葉が、実はこの業界の中には存在します。

––– 規模の小さな店舗側が、仕入れたくても商品を卸してくれる会社がいない状態が生じているということですね。

恩田 そうです。結局、大手さんでは大量に仕入れなかったら当然利益も出ないし物流費も出ない。そこを、小さな所でも1品でも2品でも届けるというような形態をやっているのはうちぐらいですね。

––– ある種、非効率なこともやってらっしゃる分をトータルで効率を上げることで何とか吸収しながらビジネスとして成立させておられるということですね。

恩田 そうです。極端な話、1,000円のものを運ぶのに運搬費が400円とか掛かるっていう所もあるわけですよ。普通、それでは商売できないですよね。

宇田川 今、話した一番のポイントはやっぱり商品と物流と情報、これが1本でつながっていくっていうことがこれから非常に重要だと考えています。情報だけとか商品だけとか物流だけっていうのではなく、それら三つが一つに輪っかになって連なってやっていくっていうような形をつくっていかなければいけない。結局、いくらデータ分析しても、例えばNBマヨネーズが、そもそも他で普通に198円で売っているところ、300円で売ったらもう絶対売れないわけで、基本の価格競争力っていうのが一番重要な要素です。そこがないと、いくら私どもがデータ分析しても売価には勝てないっていうところが、これまで分析していて強く認識するところです。そこは高くない、安い必要はないのですけど高くないっていうところをしっかりつくっていくっていうことが重要です。

 

––– レギュラーチェーンに負けない価格で、ちゃんと店頭で販売できる状況をつくるってことですね。

恩田 今、宇田川が言いました、商品、物流、情報というのは本当に一般的なサプライチェーンの世界だと思うので、それを仕入れから実際の販売までの一気通貫でやって、あとはメーカーとのタイアップもうまくやって、最終的に商品も安くしていきます。新商品を紹介する代わりに安くしてもらうみたいなことも、さっきのZFSPの仕組みを使ってやれるので、そういう形で、われわれ小売りだけではなくメーカーも巻き込んだ上で、サプライチェーンをつくっていこうというのがわれわれの大きな目的です。

恩田 明 氏

––– 貴社のビジネスモデルとしては、加盟店料をとるのではなく、あくまでも共同購買という形で商品を各店舗に卸した売上げで収益を上げられているという認識でよろしいでしょうか?

恩田 はい、あとリテールサポート指導料っていうのは頂いてはいますが、本当に数万というレベルなので、基本的には商品の卸が収益源です。

––– 御社としてはそのようにして効率を上げることで、加盟店の獲得競争に勝って、加盟店を増やすことが一番ビジネスの成長につながるという理解でいいのでしょうか?当然、1店舗あたりの売上げをアップさせることも成長につながるとは思いますが、そこは簡単に増やせるものでもないように感じるのですが。

恩田 確かにそこは難しいのですが、実際には、1店舗あたりの売上げが増えないとわれわれの売り上げは上がらないのです。もちろん、一番大きいのは加盟店数をまず維持することなのですが、ここで「維持」というのは、新規の加盟店を増やさないと間違いなく加盟店減で売上が減っていってしまいます。今のご時勢、残念なことに後継者がいないとか、売り上げの不振で大体月に数店舗は必ず辞めていかれるので。

宇田川 その上で店舗あたりの売上げを増やす機会点の話ですが、例えばこのお得サービスのシステムを通じてお客さまに対して、名前は書かないでいいので、住所や家族構成だけ書いてくだされば50ポイント上げますよっていうアンケートを出力します。そうするとだいたい4割位のお客さまが、手書きで回答を埋めて応募箱にいれていただけます。このデータをマップシステムに落とし込んで分析すると、店舗にお客様がどこから来ているのかというのが分かってきています。そういう調査分析を通じて、(国勢調査の結果等から)当該地域には20代から40代のお客さま、いわゆる子育て世代が多く住んでいるはずなのにうちの店に全然来てないといった実態が如実に出てくるので、まだまだ地域でパイを広げられる要素っていっぱいあるのではないかと考えています。

では、そういうとこどうやって強化するのっていうところで、さきほど紹介したスマホ対応等の新しいチャレンジに取り組んでいるということです。その他にも、さっきお話した月に1回しかこないお客さんというのが、全体の4割ぐらいいらっしゃるのです。このあたりの来店頻度の改善も店舗の売上げ向上につながると考えています。面白いのですが、そういう月に一度のお客さんがいつ来ているのかというデータを調べて見ると、「みんな特売をやっている日に来ているだろう」と考えがちなんでしょうが、実際には全然関係がなく、普通にほとんど均等に来店いただいています。ということは何を意味しているかというと、単純に足らないものを買いにきているのではないか、と。

恩田 冷蔵庫になくなったときにね。

宇田川 そう、冷蔵庫で牛乳なくなっちゃったので、一番近いから全日食に行こう、という感じで多分来店いただいているにも関わらず、一生懸命チラシ打って経費掛けて、という実態があり、こういう無駄をなくすべく、データを通じて一生懸命に店舗に対する啓蒙活動をしています。

恩田 チラシのコストもバカにならないですからね。1回出せば何万とか、下手すると10万ぐらいになっちゃいますから。この個別チラシは1枚50銭くらいで、さらにヒット率圧倒的に高いので効果は抜群ですよね。

宇田川 もちろん、その月に1回しか来ないお客さんには有効な購買履歴も少ないですし、こういう方がいわゆる休眠顧客にもなりやすいので、そういう方に何を個別チラシとして何を勧めたらいいのか、といったことについても分析&施策テストで取り組んでいます。

––– そのようなテストはどのようなサイクルでまわされているのでしょうか?

宇田川 テストの内容にもよりますが、新しい観点を見つけ出して、企画して、協力する店舗を探して実験やって、効果検証して(うまくいった場合に)他の店舗への展開を具体的にどうかっていうと大体1年とかぐらいかけて新しい施策を考えていくっていう感じですかね。

恩田 大体、うちのボランタリーチェーンの場合って、そういう施策を立ち上げてから、最初にやるぜ、といって手を挙げてくれる所は大体3割ぐらいなんですよ。3年ぐらいかけて大体6割とか7割ぐらいになる程度で、7割まで行けば、すごいねという感じです。ですから、通常のレギュラーチェーンが、本部がやれといったらもう必ずダーッと浸透するような徹底力っていうところが、やっぱりわれわれの課題だと思っています。

宇田川 貴志 氏

––– 個別チラシの今後についてはすでにスマホ対応というお話を伺いましたが、今後データ分析とかこの辺のシステムの部分で目指していきたい世界があれば、是非、教えてください。

宇田川 今、分析に人が関わり過ぎてしまっているので、機械化できるところはやっぱ機械化していかないと、それで回すスピードを速くしていくっていうことが重要かなと考えています。やっぱり人が作業することによってかなり時間を要してる部分がありますので、機械化し、そこに人時(にんじ)をかけないで、もっと分析テーマ探しや、施策としてこういうことやるべきだというところに人を当てていく形にしていかないと、なかなか少ない人数でやっていくには限界があるのではないかなと。

––– 1回分析で成果が出ると分かったものは、システム化がどんどんできていくような形が理想ってことですね。

宇田川 一応システム化はされているのですが、そこにまだまだ人時が結構かかっているので、そういうところを費用は掛かっても構わないので、そこに1人かけているのだったら別に機械でできるのであれば全然安いものだなと私は思ってます。もっと別のことに人を当ててくっていうことが、これから重要なんじゃないのかなと思います。

––– そもそも貴社ではシステムは内製化でされているのですか。それとも外注されてるいるのでしょうか?

恩田 私の部隊は情報システム本部で、基本的にはデータ提供までのインフラは全部私の担当なのですが、基本的には内製です。ただ、例えばさっき言ったPOSなどは基本的にはパッケージではあるので、保守とかは当然外に出してはいます。あとは基幹システムうんぬんというところは内製をしつつも、やはり協力会社、一緒に作ってくれた会社とかにはずっと入ってもらって日々改修をしているということは当然あります。

今後、宇田川が言ったように、人が効率良く分析できる状況をつくるとともに、やはりその分析できる人を増やしていくっていうことも大切だと思っています。そこはITとかツールとかである程度賄えるようにしないと、教育も含めて分析やれといっても、みんななかなか出来ないので。どういう形なら分析できる人数を増やせるのか考えて、例えばMDとかSVとかも、他人に頼まなくても全部自分たちで分析できるというような環境をインフラとして整えていくことがこれからは必要です。

会社としては知識集約型企業を目指していて、食品のボランタリーチェーンでそういうことを標榜するというのもなかなかないとは思いますし、それは非常に面白い方向性だと思うので、そこはちゃんとできるようなインフラと、あとは教育を充実していかなくちゃいけないかなというふうには思っています。

––– ありがとうございます、本日は貴重なお話を詳細にわたってお聞かせいただきありがとうございます。

恩田・宇田川 ありがとうございました。

撮影 江藤 耕治

カテゴリ
アーカイブ
記事アクセスランキング
タグ